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611アニバーサリー企画SS。 (全てのお題は「確かに恋だった」様より)
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「なぁ、中尉、君は私のことをどう思っている?」
ギリギリではあるが定時に本日分の書類を終わらせた彼が、デートへと向かうために執務室を後にしようと背を向けたところで、そこへ残る彼女へと不意に口を開く。見えない表情と抑えられた低音はその真意まで告げてはくれず、特に意味はないのだろうと彼女も静かに返す。
「すぐに書類を溜め込もうとする手のかかる上官だと思っておりますが」
「こういう時はせめて褒めたまえよ。そうではなく…」
振り返り、若干大げさにやれやれと顔を顰めたかと思えば、変化は一瞬。
急激に縮められる距離、手慣れた所作で彼女の手を掴んでもっと近くへと引き寄せた男は、抵抗よりも早くその耳元へ唇を寄せると低くて甘い声を鼓膜へと注ぎ込む。
「男として、だ…」
「ーッ…そんなことよりお約束の時間に遅れますよ?」
突然、仕掛けられたその言動に息をのむのも一瞬。びくっと震えた身体を彼に気付かれるわけにはいかない。何を考えているのか分からないが、どうせ気まぐれな戯言にすぎない。平静を装って自然な所作で彼の手を振りほどき再び距離を作る。
「ああ。もうこんな時間か、仕方ない…君の答えは後でじっくり聞かせてもらおう」
銀時計を開き確認するとそのままポケットに手を入れ、今度こそ本当にこの場を後にする上官の背を見つめながら、そんなもの口にするのはこれから会う女性の役目ではないかと彼女は当然のように思っていた。だからその時、彼が口元に歪んだ笑みを浮かべていることには気付かなかった。


 ロイがこうやっていつもは終わらない量の書類を終わらて帰っていった後、自分の仕事も残ってない時はすぐには帰らずに射撃訓練に行くのがリザの常となっていた。
ダンッダンッと狙った位置を打ち抜く。常と少しだけ違ったのは帰る間際の彼の台詞…何故あんなことを。例えタチの悪いお遊びだろうが、自分がそんなことを言われるなんてなかったのに。少し苛立っている自分と戸惑っている自分、そしてこうして銃を持つことで立場を再確認している自分…そこまで思ってハッとする。
ダンッ…狙った位置は僅かに外れていた。
どうかしている。気がゆるんでいるのに違いない。これ以上考えてはいけない気がして、再び射撃に集中した。

 どうして?その姿を見た時、何故からしくもなく動揺した。
前方から少しずつ近付いてくる一組の男女、黒いスーツに身を纏った男の見間違いようのない姿。
自分の帰宅コースと彼のデートコースが重なることなんてまずない。
それなのに今日に限って何故…。
否、いくら逆方向といえど徒歩可能圏内なのだ。こういう偶然もあるだろう。
普通に気付かなかったものとして素知らぬ顔をして通りすぎればいいのだろうか、いや、彼にそういう演技が通用するとは思えないし不自然な気がする。
ならば部下として「お疲れさまです」と敬礼をするのか…せっかくの彼のプライベート、しかもデートの時間に水をさしたと嫌な顔をされるだろう。
かといって、知人にするように会釈をして通り過ぎるのも何か違う気がする…。
このらしくない迷いが動揺しているのだという事実を突き付ける。
僅かに早くなった心拍数が嫌になる。どうして私は…。
その時間、僅か1分足らず。彼の漆黒の瞳と視線が、絡んだ…。

**
 時刻は深夜、ロイがリザの住居のドアをノックする音が闇夜に響いた。
「私だ」
言葉はそれ以上必要ない。
「…何かありましたか?」
彼女は私の突然の訪問に怪訝な表情を浮かべながらも静かにドアを開いてくれる。
「君が意味深な態度をとるから相手に誤解されてね。面倒だから別れることにしたんだ。その責任を君にとってもらいにきた」
彼女のせいだなんて嘘だった。デート相手からはほどよく情報も得たし、そろそろ潮時だったのだ。それを利用させてもらったにすぎない。
どこまでも上司と部下の関係の平行線上、踏み出せない強固なボーダーラインを前に徐々に少しずつ張巡らせた蜘蛛の網。狙うのは唯一人だけ。
情報収集が主であることは告げずに、これみよがしにデートの時は主張して出かけることを繰り返し、デートの時だけは早く終わる書類、そして勤務時の会話も手伝って、わざと彼女の帰宅時間、あの道を通った。勿論、彼女とはちあわせるためだ。

「責任?」
「こういうことだよ」
急激に近付いたロイに内側の壁に強引に肩口を押さえつけられて走る痛みにリザは僅かに顔を顰めながら抵抗する。
閉められたドアに押し付けられるようにして唇を塞がれるように奪われた。
「ん…っ」
彼の熱い舌が歯列をなぞって抉じ開けて入ってくる。口腔内を懐柔される熱に抵抗の意志まで奪われそうで。
「んん…っ」
やっと唇を解放された時には息もあがっていて、それを隠すかのように彼を睨み付ける。
「…なんのまねですか」
「さぁな。だが、いくら君が鈍くてもこの状況で男が何を考えてるかなんて分かるだろう」
「デート相手の身代わりですか…欲求不満ならつきあって下さるお相手はたくさんいらっしゃるじゃないですか」
「ただの性欲処理なら君にだけは手を出さんさ。考えてみたまえ。私がこうしている、その意味を」
「偶然とはいえ、大事なデートを邪魔された仕返しなんでしょう?莫迦なまねはやめて下さい」
「これは本気ではないと?」
「貴方が私に本気になるわけがありません」
「知った風なことを言うじゃないか。何も知らないくせに」
そのまま彼女を腕の中に拘束すると、首筋にツゥーと舌を這わせる。
「や、大佐っ!?何を」
「君がまだ知らない本当の私を知りたくないか?」
そんな必要はないとそう言えばいい、それなのに何も言えない。それは抗えない誘惑。彼の漆黒の瞳が、声音が逃げるのを許してくれない。熱をもった彼の真劇な視線に、力強い腕に、私は…確かにこの時、ロイ・マスタングという男に捕らわれていたのだ。
「それに私はまだ答えを聞かせてもらってない」
「答え、ですか?」
「ああ。代わりに私以外知ることのない君を教えてくれ」
今度の口付けは貪るように深く深く。
息のあがった朱色に染まりつつある肌、熱に濡れた鳶色の瞳を見つめて言葉を紡ぐ。
「他の女なんていらない。私は君が」
それ以上の言葉は唇にあてた彼女の手で封じられる。
「大佐、一時の気の迷いに流されてはいけません…責任なら取らせていただきます。ですから…」
「それが君の答えか」
私が欲しいのはそんな答えではない。だが、君がこれ以上の言葉は望まないというのなら…。
「ならば、気の迷いかどうかは、これからじっくり教えてあげよう。言葉以外の方法でね」


重ねる肌と肌、繋げる身体、融けそうな輪郭、互いの熱が混ざりあって拡散した後に腕の中にいる彼女に彼は静かに口を開く。睦言というよりは寝物語のように静かな声はどこか切なさを帯びていて。
「随分昔になるが、私は気になる女の子にプレゼントを贈ろうとした。だが何しろそういう事は初めてでね。今なら彼女に似合いそうな可愛い髪飾りだって見つけられるが、当時の私は情けないことに何をあげたら喜んでくれるのか、さっぱり分からなかった。それでも彼女の笑顔が見たくて悩んでいたらマダムの店で働いてる1人が、これなら流行りだし大丈夫だと教えてくれてね。だが、あまり喜んではくれなかったな…」
「……」
「今も同じだよ。君にどうしたらいいのか分からなくて間違いばかりを選んでる気がする…」
「そうですね…これは間違いなんです」
「間違いと分かっていて君は私に抱かれるのか」
「ーっ」
わずかに彼女の身体が震えたのを彼の腕がしっかりと優しく抱き締める。
「大丈夫だ…それが答えだと私は知っている」


私と彼女の世界が重なるために上司部下である関係性はきっと変わることなどないだろう。守りぬかれる境界線、禁じられた言葉、それらに伴う痛みも。
それでもこの手を離せないことだけは真実で、続いていく先に常に君がいればそれでいい。そうしていつかー。

Fin.

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