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611アニバーサリー企画SS。 (全てのお題は「確かに恋だった」様より)
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「…何故これがここに?」
東方司令部最高司令官室の自分の机の上に置かれたものが一目見て何か察した国軍大将の階級にある彼は、自分を誰より解っている筈のそれを持ってきた副官の彼女に尋ねる。
「将軍が昔から縁談をお受けにならないのは存じておりますが、今回のお話は今までのとはわけが違います。一度目をお通し下さい」
その言葉にザッと目を通すもそのまま閉じ、薄い笑みを浮かべながらまた興味なさげに机に置いた。
「…なるほどな。だが同じだ。今までと変わらん」
「一度、試しにお考えになっても宜しいのでは?目的最優先のために避けていらっしゃるのでしたら、その目的のためにもこれから先、最も強力な人脈になります。将軍は軍での力は十分にもってらっしゃいますし、グラマン閣下も多大な信頼を寄せて下さってます。ですから、今後、必要なのは軍以外のこの国を作り上げていく力だと思います。その点…」
「その点、彼女の家なら家系は古くからの名家、しかもシンとの貿易で大成功した 貿易業界でのトップ、これから先のアメトリスにはなくてはならない存在だな。完璧なまでに申し分ない、か」
「はい。それに…」
「それに?」
「人脈だけではありません。同性の私から見てもとても魅力的な女性だと思いますし、将軍も以前お会いになった際に素晴らしい女性だと本心から褒めておられました。これ以上の御縁はそうそうあるものではないのではないですか?」
「確かにな。家柄、それによる人脈、本人に至るまで文句のつけようがない。逃したらこの先、このレベルの縁談がくる可能性は低い。私もいい歳だしな?君がそう言うのも分からんではない。だが、どんなにこれ以上ない最高の利点が揃っていようが一つの絶対条件の前では無意味だ」
「絶対条件、ですか?」
「そうだ。君であるかないか。分かりやすくていいだろう?」
「…そんなに縁談が嫌なんですか」
「それなら君は、進む道のために愛してもいない女性と家庭をもって、果たすべき目的のために不幸にしても、私がそんなことを望んでいなくとも、【公】のためには【私】は仕方ない、とそう言うわけだ」
「なっ!違います!!私はそういうつもりでは…」
緊迫した空気、かと思えば突然、目の前の男がくっくっくっと堪えていたかのように笑い出す。
「将軍っ??」
「いや、すまない。君があまり他意なく真剣だから、意地悪のひとつも言いたくなってね。言いたいことは分かってるさ。だが、それは正論にすぎないよ。私がそんな正論に収まる男だとでも?君が一番知っているだろう。いい加減、観念したまえ」
手首を掴まれ、引き寄せられると、真っ直ぐに見つめてくる黒曜石に縫いとめられる。
「わざわざ縁談を受ける必要も待つ必要もない。私の生涯の伴侶はここにいる」
「っ…一時の気の迷いに、流されてはいけません」
「嘗めるな。永久的な本気だ。なんなら誓ってもいいぞ?」
「やめて下さい、将軍。言う必要もないと思ってましたが、そんな形でなくとも私はあなたのものです。ですが、あなたが私のものにはなる必要はありません」
「私がほしいのはそんな答えではないよ。リザ。副官じゃない君の本心が聞きたい」
「他に何が言えるというのですか」
「君をずっと頑にさせていたのは私だな。分かっている。だが…今の私でも言わせてやれないか?」
少し切なげな笑みを浮かべてどこまでも真劇な漆黒が自分をとらえる。この眼差しにはもうずっと昔から弱いのだ。
「…貴方はずるいです」
「何を今更?それが君の選んだ男だろう?」
「そうですね。上司としても一人の男性としても一生付いていくと選んだ貴方です。これで宜しいですか?」
淡々と言っているがその顔が赤くなっているのが可愛くて仕方ない。
「まぁ合格点かな。では、これで改めて誓約済みだ」
彼女の左手をそっととると、証を刻むかのようにその薬指に口付けを落とした。
いつもと変わらない司令官室の窓から差し込む光に照らされながら、そこだけ神聖な儀式の場のような一瞬。彼と彼女しか知らない刹那。
「これは見えないから外すことも出来ない。君のその薬指に永久にある。覚えておきたまえ。忘れてるなと思ったらその度に口付けるからな」
口付けた部分を指しながらニヤリと笑う男が、本当に楽しそうで幸せそうな笑みを浮かべていたから。
「バカですか」
不覚にも涙ぐんでしまいそうで、いつもどおり強気な言葉を紡ぐ。
「バカで結構。ずっと欲しかった言葉をもらえたからね」
それでもきっと貴方にはお見通しで、今度は優しく唇に口付けられた。

それは二人だけの秘め事、二人だけの誓約。

Fin.


★あとがき

あーなんというか本当にすみません;同じ台詞でも大佐×中尉とは違う大将×副官たんを書きたかったのですが、形にするのはなんと難しいことか!
因にタイトルのお題の他に「薬指にくちづけを」というお題も使わせていただいてます。二人だけに分かる、二人にしか分からない、閉鎖的で絶対的な約束が好きです。萌えます。
副官たんは大将に大事にされていることは分かっているけど、自分が奥さんになるというイメージがなくて、純粋に大将のことを想ってるからこそ縁談をすすめているという感じでひとつお願いします。や、実際、画集での牛先生の萌えコメントから考えるとこんなまどろっこしいやりとりはないと思うんですけども。形にとらわれず互いが一生の伴侶であることは揺るぎなく分りあっている気がする!!コメントからの妄想はこれからいろいろと書いていきたいです。もう今、ちょっと妄想しただけでたぎってたぎって仕方ない!!!もえええええええ!!!
あと、これを叩き台としたベッタベッタでシリアスな大将縁談ネタもちゃんとした長文で書きたいなーと妄想と意欲だけはあるんですが。さてはて。

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「なぁ、中尉、君は私のことをどう思っている?」
ギリギリではあるが定時に本日分の書類を終わらせた彼が、デートへと向かうために執務室を後にしようと背を向けたところで、そこへ残る彼女へと不意に口を開く。見えない表情と抑えられた低音はその真意まで告げてはくれず、特に意味はないのだろうと彼女も静かに返す。
「すぐに書類を溜め込もうとする手のかかる上官だと思っておりますが」
「こういう時はせめて褒めたまえよ。そうではなく…」
振り返り、若干大げさにやれやれと顔を顰めたかと思えば、変化は一瞬。
急激に縮められる距離、手慣れた所作で彼女の手を掴んでもっと近くへと引き寄せた男は、抵抗よりも早くその耳元へ唇を寄せると低くて甘い声を鼓膜へと注ぎ込む。
「男として、だ…」
「ーッ…そんなことよりお約束の時間に遅れますよ?」
突然、仕掛けられたその言動に息をのむのも一瞬。びくっと震えた身体を彼に気付かれるわけにはいかない。何を考えているのか分からないが、どうせ気まぐれな戯言にすぎない。平静を装って自然な所作で彼の手を振りほどき再び距離を作る。
「ああ。もうこんな時間か、仕方ない…君の答えは後でじっくり聞かせてもらおう」
銀時計を開き確認するとそのままポケットに手を入れ、今度こそ本当にこの場を後にする上官の背を見つめながら、そんなもの口にするのはこれから会う女性の役目ではないかと彼女は当然のように思っていた。だからその時、彼が口元に歪んだ笑みを浮かべていることには気付かなかった。


 ロイがこうやっていつもは終わらない量の書類を終わらて帰っていった後、自分の仕事も残ってない時はすぐには帰らずに射撃訓練に行くのがリザの常となっていた。
ダンッダンッと狙った位置を打ち抜く。常と少しだけ違ったのは帰る間際の彼の台詞…何故あんなことを。例えタチの悪いお遊びだろうが、自分がそんなことを言われるなんてなかったのに。少し苛立っている自分と戸惑っている自分、そしてこうして銃を持つことで立場を再確認している自分…そこまで思ってハッとする。
ダンッ…狙った位置は僅かに外れていた。
どうかしている。気がゆるんでいるのに違いない。これ以上考えてはいけない気がして、再び射撃に集中した。

 どうして?その姿を見た時、何故からしくもなく動揺した。
前方から少しずつ近付いてくる一組の男女、黒いスーツに身を纏った男の見間違いようのない姿。
自分の帰宅コースと彼のデートコースが重なることなんてまずない。
それなのに今日に限って何故…。
否、いくら逆方向といえど徒歩可能圏内なのだ。こういう偶然もあるだろう。
普通に気付かなかったものとして素知らぬ顔をして通りすぎればいいのだろうか、いや、彼にそういう演技が通用するとは思えないし不自然な気がする。
ならば部下として「お疲れさまです」と敬礼をするのか…せっかくの彼のプライベート、しかもデートの時間に水をさしたと嫌な顔をされるだろう。
かといって、知人にするように会釈をして通り過ぎるのも何か違う気がする…。
このらしくない迷いが動揺しているのだという事実を突き付ける。
僅かに早くなった心拍数が嫌になる。どうして私は…。
その時間、僅か1分足らず。彼の漆黒の瞳と視線が、絡んだ…。

**
 時刻は深夜、ロイがリザの住居のドアをノックする音が闇夜に響いた。
「私だ」
言葉はそれ以上必要ない。
「…何かありましたか?」
彼女は私の突然の訪問に怪訝な表情を浮かべながらも静かにドアを開いてくれる。
「君が意味深な態度をとるから相手に誤解されてね。面倒だから別れることにしたんだ。その責任を君にとってもらいにきた」
彼女のせいだなんて嘘だった。デート相手からはほどよく情報も得たし、そろそろ潮時だったのだ。それを利用させてもらったにすぎない。
どこまでも上司と部下の関係の平行線上、踏み出せない強固なボーダーラインを前に徐々に少しずつ張巡らせた蜘蛛の網。狙うのは唯一人だけ。
情報収集が主であることは告げずに、これみよがしにデートの時は主張して出かけることを繰り返し、デートの時だけは早く終わる書類、そして勤務時の会話も手伝って、わざと彼女の帰宅時間、あの道を通った。勿論、彼女とはちあわせるためだ。

「責任?」
「こういうことだよ」
急激に近付いたロイに内側の壁に強引に肩口を押さえつけられて走る痛みにリザは僅かに顔を顰めながら抵抗する。
閉められたドアに押し付けられるようにして唇を塞がれるように奪われた。
「ん…っ」
彼の熱い舌が歯列をなぞって抉じ開けて入ってくる。口腔内を懐柔される熱に抵抗の意志まで奪われそうで。
「んん…っ」
やっと唇を解放された時には息もあがっていて、それを隠すかのように彼を睨み付ける。
「…なんのまねですか」
「さぁな。だが、いくら君が鈍くてもこの状況で男が何を考えてるかなんて分かるだろう」
「デート相手の身代わりですか…欲求不満ならつきあって下さるお相手はたくさんいらっしゃるじゃないですか」
「ただの性欲処理なら君にだけは手を出さんさ。考えてみたまえ。私がこうしている、その意味を」
「偶然とはいえ、大事なデートを邪魔された仕返しなんでしょう?莫迦なまねはやめて下さい」
「これは本気ではないと?」
「貴方が私に本気になるわけがありません」
「知った風なことを言うじゃないか。何も知らないくせに」
そのまま彼女を腕の中に拘束すると、首筋にツゥーと舌を這わせる。
「や、大佐っ!?何を」
「君がまだ知らない本当の私を知りたくないか?」
そんな必要はないとそう言えばいい、それなのに何も言えない。それは抗えない誘惑。彼の漆黒の瞳が、声音が逃げるのを許してくれない。熱をもった彼の真劇な視線に、力強い腕に、私は…確かにこの時、ロイ・マスタングという男に捕らわれていたのだ。
「それに私はまだ答えを聞かせてもらってない」
「答え、ですか?」
「ああ。代わりに私以外知ることのない君を教えてくれ」
今度の口付けは貪るように深く深く。
息のあがった朱色に染まりつつある肌、熱に濡れた鳶色の瞳を見つめて言葉を紡ぐ。
「他の女なんていらない。私は君が」
それ以上の言葉は唇にあてた彼女の手で封じられる。
「大佐、一時の気の迷いに流されてはいけません…責任なら取らせていただきます。ですから…」
「それが君の答えか」
私が欲しいのはそんな答えではない。だが、君がこれ以上の言葉は望まないというのなら…。
「ならば、気の迷いかどうかは、これからじっくり教えてあげよう。言葉以外の方法でね」


重ねる肌と肌、繋げる身体、融けそうな輪郭、互いの熱が混ざりあって拡散した後に腕の中にいる彼女に彼は静かに口を開く。睦言というよりは寝物語のように静かな声はどこか切なさを帯びていて。
「随分昔になるが、私は気になる女の子にプレゼントを贈ろうとした。だが何しろそういう事は初めてでね。今なら彼女に似合いそうな可愛い髪飾りだって見つけられるが、当時の私は情けないことに何をあげたら喜んでくれるのか、さっぱり分からなかった。それでも彼女の笑顔が見たくて悩んでいたらマダムの店で働いてる1人が、これなら流行りだし大丈夫だと教えてくれてね。だが、あまり喜んではくれなかったな…」
「……」
「今も同じだよ。君にどうしたらいいのか分からなくて間違いばかりを選んでる気がする…」
「そうですね…これは間違いなんです」
「間違いと分かっていて君は私に抱かれるのか」
「ーっ」
わずかに彼女の身体が震えたのを彼の腕がしっかりと優しく抱き締める。
「大丈夫だ…それが答えだと私は知っている」


私と彼女の世界が重なるために上司部下である関係性はきっと変わることなどないだろう。守りぬかれる境界線、禁じられた言葉、それらに伴う痛みも。
それでもこの手を離せないことだけは真実で、続いていく先に常に君がいればそれでいい。そうしていつかー。

Fin.

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