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611アニバーサリー企画SS。 (全てのお題は「確かに恋だった」様より)
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「もしもし。リザさん?お久しぶりです。ウィンリィです」
「ウィンリィちゃん?ほんと、お久しぶりね。昨日、招待状届いたわ。おめでとう」
「ありがとうございます…ってなんか恥ずかしいな。あ、その招待状のことなんですけど、お二人とも凄くお忙しそうだし大丈夫なのかなと思って」
「わざわざありがとう。大丈夫よ、ちょうど一区切りついたところなの。エドワード君とウィンリィちゃんの結婚式だもの。喜んで出席させてもらうわ。本当によかったわね」
「そうなんですけど、でもあいつったら信じられないんです!プロポーズになんて言ったと思います?等価交換の法則だからとか言うんですよ」
「エドワード君らしいわね」
「いつまでたっても錬金術バカっていうか…錬金術師って皆、ああなんですか?」
「そうねぇ…」
「これから先の参考にマスタング将軍とリザさんのお話もききたいなぁって」
「私達はそういう関係じゃないもの。参考にはならないわよ」
「でも、お二人はどんな時でも一緒にいらっしゃるじゃないですか。理想的な関係だなぁって。正直に言うと、私、ずっとリザさんが羨ましかったんです」
「私もウィンリィちゃんが羨ましくなったことあったわよ」
「え?リザさんがですか?だって私、なんで待ってるしか出来ないんだろうってずっと思ってたんですよ」
「過去形なんでしょう?」
「はい。やっと本当に分かった気がするんです。私には私の居場所があって私にしか出来ない役目があるんだって。そしてそれはとても幸せなことなんだって」
「そうね。私も今は同じことを思ってる」
「なんか似てないのに似てるんですね私達。あ!きっとバカな錬金術師には私達みたいな女じゃないと駄目なんですよ」
「そうかもしれないわね」

クスクスと笑いあって和やかな談笑のまま電話は切れた。
「随分と楽しそうな声が聞こえたが相手は誰か聞いても?」
そこへ当然のように彼があらわれる。こういうタイミングは相変わらずだ。
「いつからいらしたんですか?」
「残念ながら、つい先程だよ。質問の答えを聞いていないが?」
「ウィンリィちゃんですよ。こちらの都合をわざわざ気遣ってかけてくれたんです」
「ああ、鋼のの。しかしあいつも意外とやる時はやるもんだな。で、何を話してたのかね?」
「随分、気にされるんですね」
「君のあんな楽しそうな声は久しぶりに聞いたからね。気にもなる」
「女同士の秘密です」
「そう言われると余計気になるんだが」
「将軍だってエドワード君が挨拶まわりに来てくれた時に男同士の会話されてたじゃないですか」
「なっ!まさか君、聞いて…」
「私が盗み聞きなんてするとお思いですか。それとも聞かれてはまずいお話をなさっていたんですか?」
「いや、そういうわけではないんだが…む。そうか女同士の秘密か…」
「幸せそうでしたよ。ウィンリィちゃん。式に行くのが楽しみですね」
「ああ。そうだな」

初めて会った時はあんなに小さかったあの子達が新しい家庭を作っていく。
次世代が幸福を享受していく世界、願っていたものの1つにふれて自然と柔らかな笑みを浮かべながら、ふと、彼との新たな約束を思い出した。
ウィンリィちゃんには、ああ言ったけど私達の約束の言葉は錬金術師たる彼らしくない言葉だったのだ。

ホムンクルスとの最終決戦が終わった後、視力の戻った彼はイシュヴァール政策への決意とともに1つの約束をくれた。
「私の全てをもって取り組もうと思う。どれくらいかかるかも分からん。私の未来も預ける覚悟だ。そのうえで君と改めて約束を交わしたい」
「はい」
「私には君が必要だ。だから君の未来は私がもらう」
真っ直ぐな眼で私を見て彼はそう言った。
それはもう私の意志を確認する言葉でなく彼の意志の言葉。
幼いあの日から本当はずっと欲しかった言葉だ。
だから私はこの約束に決まりきった言葉を口にした。
「何を今更」

今、私の世界は現在も未来も彼の世界と同じところにある。


Fin.


★コメント
最終話記念とロイアイ記念を兼ねて。
最後の写真のウィンリィのピアスがないのとリザの髪がショートなのはそういう意味もあるのかなという妄想。ついでにエドがプロポーズしたきっかけの1つに増田との会話があったりしないかなとか妄想。
他、いろんなものをつめこんだらこうなりました。
最終話は本当にいろんなパターンが妄想できて楽しいのですが、そのうちの1つだと思っていただければと。

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おもえば最初から彼は異質な存在だった。
父の書斎に踏み込むことを許された青年。閉ざされたこの狭い世界にある日突然入り込んできた彼は、この誰も寄せつけないかのような排他的な屋敷にあまりに自然に溶け込んできた。
正直に言うと、最初の頃、私はどこか彼が苦手だった。嫌いなわけではなく苦手。まっすぐないい人だというのは分かっていたから。けれど、娘である自分が上手くコミュニケーションを取れない父の領域に、やすやすと入り込める彼には、どこか複雑な想いがあったし、未発達な心には、あまりに大きな持て余す存在に、それでも気になる不思議な感情に、ただ、どう接していいのか分からなかった。

顔が合えばニコリと笑顔で声をかけられ、自分の役目なのだから当然のように家事をすれば「ありがとう」と礼を言われる。同じ家にいても研究ばかりで会話のあまりない父との生活が普通だった私は戸惑うばかりで。我ながら愛想のない返事をして、後で自分の部屋に戻ると落ち込むことも少なくなかった。
それでも彼は気にした素振りを見せるでもなく次もまた同じように接してくれるのだ。

気難しく人とあまり接するタイプではない父の弟子になって長続きしてるだなんて、こんな私に優しくしてくれるなんて、変わった人だなと思いながら、流れる月日の中で少しずつ少しずつ何かが変化していった。
最初は戸惑うばかりだった彼との他愛無い会話をいつの間にか楽しみにしている私がいた。
「いいです、勉強をして下さい」と断るのに「息抜きも必要なんだ」と言って食事の後片付けを手伝ってくれるのは困るのにどこか胸の中がほんわりとなった。
「おいしいよ」の一言に食事を作るのが楽しくなったし、しっかりしているのかと思えば意外なところでだらしない彼に錬金術師って難しい問題が解けるのに日常生活が下手なのかしらと手をやくことすら充実感を与えてくれた。

そうやって彼に対する苦手意識が薄まったかと思えば、ふとした時に自分でも分からない不可解なもやもやが込み上げてくるから、やっぱり私は気持ちを持て余していたけれど。
「リザ、よかったらこれ、もらってくれないかな?」
そう言って、用事で行っていたセントラル帰りなんだと数日ぶりに家を訪れた彼から手渡されたのは、可愛いピンクのラッピングペーパーに包まれた大人っぽい髪飾りだった。
「これ…」
「土産というか、日頃、いろいろ世話になっているからね。お礼には足りないんだが、もらってくれると嬉しい」
どうしよう…お礼なんて必要ないけど胸がドキドキするくらい嬉しいかもしれない。
「マスタングさんが選んで下さったんですか?」
「いや、私はこういうのよく分からなくてね。知り合いが流行りだと選んでくれたんだ」
そう言ってどこか照れた顔をして笑みを浮かべる彼からは、甘い女物の香水の香りがほんの微かに漂ってる気がした。
なんだか舞い上がっている自分が恥ずかしくなって急に気持ちが沈んでいくのを感じた。
「そう…ですか。せっかくですけど…」
「気に入らなかったか?」
「いえ、そういうわけでは」
「なら遠慮せずにもらってくれないか」
そう言う顔が困ったようなどこか途方にくれたような顔をしていたから。
選んでくれた人に悪いものね…。
「ありがとうございます」
「きっと似合うよ」
彼から初めてもらったプレゼントは、嬉しいはずなのにどこか胸が苦しくて。
自分の部屋でこっそりとつけてみたけど鏡の中には、大人びた綺麗な髪飾りと不釣り合いな自分の顔が映っていた。似合うなんて嘘つき…。
「マスタングさんのバカ…」
髪飾りを外してそれでも宝箱に仕舞うと膝を抱えて蹲る。なにか悪口を言いたい気持ちにかられて、ぽつりと呟いた声は小さくて狭い部屋の暗闇に溶けていった。
そして彼には別の世界があるのだと、そう思った。その時に胸が痛むこの気持ちがなんなのかは分からないまま…。


私はこの古びた家の世界が全てで閉じた世界に生きていた。
彼は私の知らない大きな世界を見ていてそこで生きる人だった。
それがこんなにも苦しいのは何故だろう?

ずっと私の胸の中にあった苦しい気持ちと不安の正体が分かる時、それは彼がこの家を出ていく時だった。
もともと彼は軍人になるために士官学校に在籍していて、長い休みの間にうちにきていたのだ。学校に戻らなければならなくなった頃に軍人嫌いの父とは、このまま軍人になることで揉めているようだった。進む道を変える気などない彼は必死で父を説得しているようだったが、どちらも頑固で話は平行線を辿る一方だった。
私が口出しできるはずなどなく、ただ、日に日に近付いてくる別れの予感に痛む胸を隠していつもどおり振舞うだけだった。
そして彼が学校に戻らなければならない日が容赦なく訪れた。

「君にも世話になったな。本当に感謝してるんだ。ありがとう」
「いえ…」
彼がまっすぐに私を見つめて告げてくれる言葉に私も何か言わなくてはと思うのに不思議と何も言葉が出てきてくれなかった。
「師匠には反対されたが、ちゃんと軍人になれたらまた話に来ようと思っているんだ。だからそれまで元気で」
彼はそれを察してくれたのか相変わらず嫌な顔もせず優しい顔をして、そう言葉を紡いで背を向ける。もう汽車の時間が迫っているのだ。
別れの言葉と向けられた背に心音だけが煩くて目の前が熱くなる。
私だってたくさん伝えたいことはある筈なのに、どうして、どうしてちゃんと言えないんだろう…待って、お願い、行かないで。
一歩進み出した彼の歩みがふと止まる。
「リザ?」
彼を止めているのは私の手だった。無意識のうちに咄嗟に伸ばした手は、口よりずっと正直で彼の背中のシャツをそっと握り締めていたのだ。それを認識した途端、何をやっているのと急にどうしようもなく恥ずかしくなり慌てて手を離した。
「す、すみません…」
何をやっているの…こんな子供みたいな真似…彼の顔がまともに見れない。
「いや…リザ、」
何かを言おうとした彼の言葉を遮って顔をあげて言葉を紡ぐ。困らせたりなんてしたくない。慌てて離した手、それが全てを物語っている気がして、そっと自分で握りしめる。
「その、体には気をつけて下さいね。マスタングさん。士官学校が忙しいからって食事を忘れたり机でうたた寝なんてしたらダメですよ?」
彼はまだ何かを言いたそうだったけどどこか少しだけ切なげな笑みを浮かべたのは一瞬、次にはいつも通りの顔だった。
「ああ、そうだな。わざわざ夜食を用意してくれたり毛布をかけてくれる優しい誰かさんはいないから気をつけるよ」
そう言って頭をポンポンと優しく撫でられる。
「もう!子供扱いしないで下さい」
「そんなつもりはないんだがな」
「お元気で」
「ああ、リザも」
そう言って今度こそ本当に彼は歩み出した。彼の大きな世界に。
私の小さな世界に新たな彩りを残して。


慌てて離した手ーそれが私が自分の気持ちに気付いた瞬間でした。

Fin.

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