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611アニバーサリー企画SS。 (全てのお題は「確かに恋だった」様より)
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「これが君の初めてだからな」
どこかぶっきらぼうに、けれど否を言わせないくらい真撃で真剣な声音と眼差しで言われて彼女は思わず微苦笑を浮かべた。

***

「んっ…ん…ん」
先程から目の前のスクリーンで繰り広げられるキスシーンにどうにも落ち着かない。心拍数があがっている。心なしか顔も熱い気がする。確かに長いし濃厚なキスシーンだが、別に私だってこれくらいで動揺するほどガキではない。普段なら映画のワンシーンとして特に意識すべきものではなかった。隣にリザさえいなければ…。

師匠が珍しく用事で遠出している際にロイは普段、あまり遊びにも行けていないリザを映画に誘った。今、話題になっている流行りの冒険活劇。そのクライマックスのヒーローとヒロインのラブシーンなのだが、まさかこんなシーンにこれほどまで隣の存在を意識してしまうとは思わなかったのだ。チラリと横目でリザを盗み見ると、暗がりでその表情までは伺い知ることは出来ないが微動だにせず視線はそのスクリーンに注がれている。こんなディープキス、彼女には刺激が強すぎるだろう…初めて誘った映画でこれはマズイ。長すぎるキスシーンのせいで私は隣のリザばかりが気になって映画どころではなかった。
フウッと小さく息をついた彼女の気配にようやくエンドロールが流れていたことに気が付いたくらいだ。

明るくなった場内で顔をあわせた彼女の頬はやはり赤く染まっていて林檎のようだ…可愛い…。ではなくて!なんだ、このどことなく気まずい雰囲気は。そして自然と彼女のピンクの唇を見つめてしまう己の視線に気付いて慌てて目をそらす。
「…出ようか」
「あ、はい」
そのまま何を話すでもなく暫く歩き、気まずい沈黙に言葉を探す。
「あ~、面白かったか?」
「はい…ありがとうございました」
ほんのりと綻ぶ笑顔に安心したのも束の間、すぐに何か困惑したような表情にドキリとする。
「どうした?」
「いえ、その…」
彼女らしくもなく言い淀むその頬は赤い。
「ハッキリ言ってくれると助かるんだが」
こんな映画に連れてくるなんてどういうつもりなんですか!と言われるかと覚悟した私に飛んできたのは全く想定外の言葉だった。
「…苦しくないんでしょうか?」
「え?」
「あんなに長くしていたら呼吸困難になりそうで大丈夫なのかなと…」
それはもしかして、あれか、キスシーンの話か…。
純粋にそんな事を聞かれ、おもわず私の顔まで赤くなる。その鳶色の瞳でピンク色の唇でそんなことを言われるとまた心拍数が狂いだす。なんなんだ!これは…
「リザにはそんな話はまだ早い」
内心、渦巻く葛藤を知られまいと口が滑った言葉。あ、しまった!この手の子供扱いは彼女には禁句なのだったと最近になってようやく学んだことを思い出した時にはもう完全に彼女の機嫌を損ねた後だった。
「わ、私だって、キスしたことくらいあります!」
謝ろうとした私の口は、けれど彼女の爆弾発言によって暫く再起不能に陥ったのだった。
今、彼女は何と言った??


彼の子供扱いにカアッと頭に血がのぼって、口走った言葉に恥ずかしくなって、もう何が何だかわけがわからなくなって、私は彼の前から逃げるように走って家に帰っていた。
さっきまであんなにドキドキしてフワフワしていたのが嘘みたいだ。マスタングさんのバカ!バカ!バカ!映画に誘ってもらえて本当に嬉しかったのに…。
やっぱりあの質問が子供っぽすぎたのだろうか…。そう思ったら急に自分が恥ずかしくなってきて、いたたまれなくなってベッドの上の枕にポフンと顔を押し付ける。
ただ、あの映画のキスは自分が知っているものとは違っていて、気になってしまったのだ。彼はそれをしたことがあるのだろうか…と。ツキンと胸が痛んで少し苦しくなる。
そっと唇に指をあてる。
映画のキスが本物の大人のキスだとしたら、あれは…。

あの時、夜食を持って訪ねた彼の部屋で机に突っ伏して居眠りしているロイを暫くリザは見つめていた。あどけない寝顔についクスリと笑みが浮かぶ。なんとなく近寄って至近距離で見つめていたら、睫毛が長いことに気が付いて、おもわず手を伸ばしていた。
まさかその気配で目を覚ました彼が飛び起きるだなんて思わなくて。
「すみませんっ!師匠!っー!」
その弾みにコツンと額がぶつかった時に他にもう一ヶ所触れた場所があったのだ。一瞬、確かに唇と唇が触れた。
「ーっ」
瞬時に熱くなった唇を隠すように手をあてると慌てて彼の傍から離れる。
「あ、れ?リザ?」
寝惚けていたらしい彼がそれに気付いているかどうかは分からなかったし、何も言わない彼にその時はホッとしたのも事実だったのだけれど。

どうして、今、こんなにも胸が苦しいのだろう…。


***

「…んっ…ん」
奪うように何度も何度も繰り返される熱い口付けに意識まで彼に溺れてしまいそうな最中、そんな昔の記憶が過った。
すっかり身体の力がぬけてしまい彼の成すがままになっていた唇がやっと解放される頃には息はあがっていて、呼吸を整える私の濡れそぼった唇を彼の親指がぬぐいながら漆黒の瞳に痛いくらいに見つめられる。
「大丈夫だっただろう?」
そのままどこか熱に濡れた声音に告げられた言葉は、過去の記憶と確かに繋がっていて…。おもわず言葉をなくしてしまう。共有される記憶を認識して頬が更に熱くなる。
確かに幼かった私の胸を痛めた大人のキスは、時を経てその彼によって充分すぎるくらいに教えられたことになるのだ。息も止まるくらいの激しさで人の唇を奪っておいて、その余裕めいた表情がどこか悔しい。
何も言えないまま、その漆黒の眼差しに静かな焔を見つけて息をのむ。
「これが君の初めてだからな」

どこかぶっきらぼうに、けれど否を言わせないくらい真撃で真剣な声音と眼差しで言われて彼女はその意味に気付く。それはつまり…。
「違いますと言ったら?」
「君が私以外に許した記憶などどんな些細なものだろうが塗りつぶしてやる」

それは不可能だ。そんなもの存在しないのだから。
「ーっ」
真実を告げようか迷った唇はそれよりも早く奪われて、解放されたら今度こそ告げようと決めた。


Fin.


★コメント★
ロイアイのファーストキス妄想はそれこそ何パターンもあって、そのうちの1つです。若増田×子リザたんならアクシデントキスかな~と。本当は映画シーンのあたりからもっと二人とも少女漫画テイストにしたかったのですが…あれ?
まさかの子リザたんファーストキス済み宣言にマスタングは大変だったわけですよ。生まれて初めて知る嫉妬と独占欲!そこで自分の気持ちに気付いたりとかね。長年ずーっとひっかかってて、やっと晴れてのリザたんとのチュウでいきなりディープか!お前!!っていうね。うん、ラブコメは難しいですね。因みに息も出来ないくらいのキスの時期は敢えて書いてないのですが、若ロイアイでもいいし、ずっと葛藤し続けて制御不可能になった黒マスタングな大佐中尉初期でもいいかな~とか。いっそ約束の日以降とかもありかもしれない。

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